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実務・運用
2022.03.04

早期審査制度の活用(特許)

技術的なアイデアについて特許を取得するためには、そのアイデアについて特許申請をし、特許庁の審査を受けなければいけません。

その審査には、結構な時間がかかります。特許庁が発表している資料によれば、最初の審査結果が届くまでの期間は、平均で10.2ヶ月(2020年度)とされています。10年前は平均で28.7ヶ月(2010年度)でしたから、これでもかなり速くなっているのですが、審査が完了するまでの期間で言えば、まだ年単位の時間がかかっているのが現状です。

一方、その審査期間を短縮する早期審査制度も運用されています。早期審査制度を利用すれば、最初の審査結果が届くまでの期間が平均で2.7ヶ月(2020年度)と大幅に短縮されますし、実績ベースでは、ほぼ1年以内に審査が完了します。

今回は、この早期審査制度の活用について、簡単に説明したいと思います。

早期審査制度を活用する場面

早期に自社製品を守りたい

特許申請した技術的アイデアを利用した製品を製造・販売していたところ、そのアイデアを盗用した模倣品が出てきたとします。今すぐ模倣品を排除して自社製品を守りたいけど、実はまだその特許を取得できていない、という場面があるかもしれません。

そのような場合、早期審査制度を活用して審査を速めることで、早期に特許を取得することができる可能性があり、そのぶん早期に自社製品を守ることができます。

特許取得の可能性を高めたい

実は、早期審査制度を上手に活用すると、審査が速まるだけでなく、特許を取得できる可能性を高めることができます。

特許申請と同時に早期審査制度を利用した審査を受ければ、前述のように、ほぼ1年以内に審査が完了します。特許を取得できればもちろん良いのですが、残念ながら特許が認められない可能性もあります。でも、特許申請から1年以内であれば、アイデアをブラッシュアップして再度トライすることができます(手続きの詳細は割愛します)。当然に、特許が認められない理由を考慮しながらブラッシュアップしますので、それだけ特許取得の可能性が高まるのです。

あと、副次的な効果ではありますが、思ったようなブラッシュアップができず特許取得を断念する場合に、特許申請したアイデアの公開を止めて秘密にしておくことができます。特許申請すると1年6ヶ月後に自動的に公開されてしまいますが、それより前に審査が完了しているからこそ、これが可能となるのです。

外国で特許取得できそうか見極めたい

外国で特許を取得するためには、原則的には、日本の特許申請から1年以内に、特許を取得したい国に特許申請をする必要があります。一度の手続きで世界中の多くの国に特許申請したことになるPCT出願という方法もありますが、 日本の特許申請から1年以内という期限は同じです。

日本での特許申請と同時に早期審査制度を利用した審査を受ければ、前述のように、ほぼ1年以内に審査が完了しますので、上記の期限までに、日本で特許を取得できるか否かが既に判明しています。日本で特許を取得できていれば、外国でも特許取得できる可能性が高いと言えそうです。

外国で特許を取得するにはかなりの費用がかかることから、外国に特許申請する前に特許取得できそうか見極められることは非常に有益です。

※注意

必ずしも早期審査制度を利用することがベターとは言えないケースもあります。例えば、そのアイデアを利用した製品の製造・販売の目処が立っていないケースなどは、敢えてゆっくり審査を受けることで審査の完了を遅らせて、手続き費用の発生を先送りした方がベターかもしれません。ケースバイケースでの判断が必要になります。

早期審査制度を利用する条件

早期審査制度は、全ての特許申請で利用できる訳ではなく、一定の条件があります。具体的には、以下のいずれかに該当することが必要です。

  • 中小企業、個人、大学、公的研究機関等による特許申請であること
  • 外国に特許申請しているアイデアの特許申請であること
  • 既に実施している又は2年以内に実施する予定のアイデアの特許申請であること
  • その他特別な条件(震災復興支援・アジア拠点化推進など)に合致すること

すなわち、中小企業による特許申請であれば全て早期審査制度を利用できますし、大企業による特許申請であっても早期審査制度を利用できるケースがありますので、前述した「早期審査を活用する場面」等を参考にしつつ、上手に活用することをお勧めいたします。

なお、早期審査制度は、必要事項を記載した書面により申請すれば無料で利用できますが、その書面の作成や申請を特許事務所(弁理士)に依頼する場合は、通常、所定の手数料がかかります。