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2022.06.03

PCT出願について

日本の企業や個人が外国に特許出願する方法としては、2通りの方法が存在します。

(A)外国の特許庁に特許出願する方法
(B)日本の特許庁にPCT出願する方法

(A)の「外国の特許庁に特許出願する方法」が、オーソドックスな方法です。しかし、この方法では、特許出願したい国を最初に決めて、国ごとに手続きをしなければいけません。国によって必要な書類が異なっていたり、その国の言語への翻訳も必要になりますので、多数の国に特許出願しようとすると、 最初の段階(出願時)での手間と時間と費用がかかります。

それに対し、(B)の 「日本の特許庁にPCT出願する方法」では、最初の段階(出願時)での手間と時間と費用を軽減することができます。最近では、こちらの方法で外国に特許出願ことが圧倒的に多いです。

ここでは、そのPCT出願の特徴とメリット・デメリットを、できるだけ分かりやすく説明いたします。

PCT出願の特徴

PCT出願の最大の特徴は、日本の特許庁にPCT出願するだけで、特許協力条約(Patent Cooperation Treaty)に加盟している全ての国に特許出願したものと取り扱われる点です。PCT加盟国は、2022年6月現在で156ヶ国です(具体的には世界知的所有権機関(WIPO)ホームページをご覧ください。)が、それらの国への特許出願が、たった1回のPCT出願*1により完了するのです。

ただし、PCT出願しただけでは各国の特許取得手続きは進まない点には、少し注意が必要です。特許取得手続きを進めることを希望する国には、PCT出願から30ヶ月以内*2に「移行」する必要があります。なお、日本もPCT加盟国ですから、移行国として日本を選ぶこともできます。

あとは、PCT出願すると、発明が特許性を有するか否かに関する一応の見解が記載された国際調査見解書が発行されることも特徴となっています。

<PCT出願を利用した外国特許出願フロー>

(1)日本の特許庁にPCT出願*1する。
(2)国際調査機関から国際調査見解書が発行される。
(3)PCT出願から30ヶ月以内*2に、特許取得手続きを進めることを希望する国に移行する。

*1 先行して日本に特許出願をしている場合、1年以内であれば、その先行者利益を享受しつつPCT出願することができます
*2 日本特許出願の先行者利益を享受したPCT出願の場合、「日本特許出願」から30ヶ月以内となります。

PCT出願のメリット

日本語で書類を作成できる

PCT出願の書類は、日本語で作成することができます。”パテントファースト”と言われるように、できるだけ早く特許出願をすることは非常に重要ですので、日本語が使えることは大きなメリットです 。

外国での特許取得の可能性を予見できる

前述のように、PCT出願した後に発行される国際調査見解書により特許性がありそうか(なさそうか)を知ることができますので、外国での特許取得の可能性を予見することができます。例えば、特許性がなさそうであれば、この段階で特許取得を諦めることで、その先に発生する費用を削減することができます。

手間と費用の発生を先送りできる

各国の特許取得手続きに必要な書類や各国の言語で作成した翻訳文は、実際にその国に「移行」する際に提出すればよいことから、その手間と費用の発生を先送りすることができます。

特許取得手続きを進める国の決定も先送りできる

PCT出願をすれば、PCT加盟国の全ての国に特許出願をしたものと取り扱われますので、移行国の決定も先送りすることができます。事業展開の変更などにより当初想定していなかった国の特許取得を目指すこともできます。

PCT出願のデメリット

PCT出願の分だけ費用が余計にかかる

外国の特許庁に直接特許出願するのに比べますと、PCT出願という余分な手続きをすることになりますので、その分だけ費用が余計にかかります。逆に言うと、上記のメリットをお金で買っているという考え方もできます。

PCT非加盟国には無力である

PCT出願しても、当然ですが、PCT非加盟国には特許出願したものとは取り扱われません。日本からの特許出願が比較的多い国の中では、台湾がPCT非加盟ですので、覚えておく必要があります。台湾で特許取得を目指す場合は、PCT出願とは別に、台湾の特許庁に特許出願しなければいけません。